研究内容

■ The end is the beginning...
全てはDNA二重鎖切断に始まる。


放射線は生体の遺伝情報を担う物質DNAにさまざまな損傷を引き起こします。
DNAの損傷は細胞の生存を脅かす他、がんの原因の主たるものの一つです。
放射線でがんを治すことができるのも、原爆被爆者の方々に発がんの増加が見られるのも、DNA損傷によるものと考えられます。
また、DNA損傷が生殖細胞に起こると、子孫に伝わって、遺伝的傷害が引き起こされる可能性も考えられます。
しかし、生体はさまざまなDNA損傷を修復する機構を備えています。
さらに、傷ついたままのDNAを複製したり、分配しないように、DNA損傷が完治するまで細胞周期を一時停止しておく、 「チェックポイント」と呼ばれる機構があります。
また、損傷が極めて重篤な場合や代替できる細胞が十分にある場合には、無理して修復せず、細胞自ら死に至る機構もあります。
プロセスの特徴から「アポトーシス」とも呼ばれます。
さまざまなDNA損傷の中でも最も重傷で、細胞あるいは個体の運命に最も深く関わると考えられているのが、DNAの2重らせんの両方の鎖が切れてしまう、「DNA二重鎖切断」です。
本研究室では、細胞がいかにしてDNA二重鎖切断を見つけて、修復し、他の生体防御機構を誘導するかを研究しています。

■ Recognition and Repair of DNA Double-Strand Breaks
DNA二重鎖切断の認識・修復の分子機構


本研究室で最も注目しているのは、DNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PK)というです。
この分子は、2本鎖DNAの末端に結合して活性化するというユニークな性質を持つタンパク質リン酸化酵素であり、DNA二重鎖切断の「センサー」として、その認識・修復において重要な機能を持つと考えられます。
私たちは、このDNA-PKの機能を糸口として、DNA二重鎖切断に対する生体応答と修復のメカニズムの全容を解明することを目指しています。
DNA-PKは他のタンパク質をリン酸化することを通じて、DNA修復機構やその他の生体応答機構を引き起こすと考えられていますが、生体内で実際にどの分子をリン酸化するかは明らかになっておらず、まさしく、ミッシング・リンクとなっています。
私たちは、DNAリガーゼIVと協同してDNA末端同士をつなげるXRCC4という分子が、DNA損傷に応答してDNA-PKによるリン酸化を受けることを世界で初めて示しました。
その後の研究により、XRCC4上でDNA-PKによってリン酸化される場所を突き止め、また、それがDNA二重鎖切断の修復において重要であることを示しました。
現在は、XRCC4以外にもたくさんあると予想されるDNA-PKの標的分子群とリン酸化の意義を明らかにすることを目指してさらに研究を進めています。
また、DNA-PKやXRCC4に加え、クロマチン構造を含むDNA二重鎖切断修復の巨大な複合体を単離し、その構成要素と形成過程を明らかにする研究を行っています。



■ The first 3 minutes...
最初の3分間で決まる・分かる・変わる


放射線の影響や効果ーがん治療の成否、正常組織への副作用、放射線発がんや遺伝的影響ーは、短くて数日、長い場合には数十年の長い時間の後に現れます。
しかし、元をたどれば、放射線が当たってから数時間から1日程度の間にDNA損傷をいかに正確、かつ完全に修復できたか、どれほどアポトーシスが起こったかが最終的な結果を左右していると考えられます。
さらに、DNA修復やチェックポイント、アポトーシスなどの生体防御機構の誘導に放射線が当たった後、非常に早く(数分から数時間以内)起こるタンパク質リン酸化を中心とした損傷認識、シグナル伝達機構が重要であることが、上記の私たちの研究を含め、近年の研究から明らかになっています。
従って、放射線照射後、3分程度で起こるタンパク質リン酸化などを調べることにより、未来に現れる放射線の効果や影響を予測することが可能になることが期待されます。
また、タンパク質リン酸化反応をうまく利用することにより、がんに対する放射線の効果を高めるような薬剤(放射線増感剤)や、正常組織に対する副作用を軽減するような薬剤(放射線防護剤)を開発できるかも知れません。
本研究室では、放射線科医との密な連携により、独自の成果を臨床現場に生かすことも目指しています。