・・・・・高出力レーザーや衝撃波で数万〜数十万度の高温プラズマ標的を発生し,
そこにメガ電子ボルト級の重イオンビームを打ち込む実験をしています.

1. 「重イオン慣性核融合」とは
2. ビーム・プラズマ相互作用実験
3. プラズマ中の重イオンのエネルギー損失
4. プラズマ中の重イオンの荷電状態
5. プラズマ・重イオン相互作用におけるクーロン対数
6. 応用:重イオン加速器用高性能プラズマ電子ストリッパー
7. 衝撃波管を用いた低速重イオン・プラズマ非線型相互作用実験
8. 慣性核融合用大強度重イオンビームの発生



1. 「重イオン慣性核融合」とは

核融合といえば,強力な磁場でプラズマを閉じ込める「トカマク」,「ヘリカル」,「ミラー」等の装置がよく知られています.わが国ではこの方式の研究が主流であり,世界的にも大きな成果を上げています.しかし,この方式で実際の核融合発電炉を構成するには,建設コストの削減や強烈な中性子照射に耐える材料の開発等の困難な課題があります.
一方,核融合を起こすための全く別の,より単純な方法があります.下の
図2-1は重イオンビームを用いた「慣性核融合」の原理を示します.タマゴ型の容器(材質はAuなど.大きさ数mm程度)の両端に置いた「コンバーター」(下図で水色の円柱.材質はBeなど)という固体物質に強力なパルス重イオンビーム(下図で青い矢印.エネルギー10 GeV程度の209Biなど)を照射します.すると数百万度に加熱されてプラズマ化したコンバーターは容器(空洞)内にX線を放射します.このX線は空洞内で何回も反射されていわゆる黒体輻射となり,中心に置かれた中空燃料カプセル(下図でグレーの球殻)の表面を一様に加熱します.カプセルの表面は蒸発してジェットとなり,中空の燃料を中心に向かって加速,圧縮します(これを「爆縮」といいます.).燃料は密度が1000 g/cm3程度(普通の固体の密度の1000倍!)までに圧縮・加熱されて核融合反応が点火され,膨大なエネルギーが解放されます.このように,プラズマを磁場で強制的に閉じ込めるのでなく,短時間であっても自分自身の慣性でプラズマが有限な領域にとどまる(閉じ込められる)ことを利用するため,この方法を「慣性閉じ込め核融合」,あるいは単に「慣性核融合」と言います.
この「慣性核融合」はイオンビームの代わりにレーザービームを使うことによっても可能です.事実,レーザーによる方法の研究が最も進んでいます.しかし今のところ一般に高出力レーザーの発生エネルギー効率が低く,核融合炉としてエネルギー的に成立するかは不明です.一方,重イオンビームを用いた方法は現在までに(特にわが国では)殆ど研究が進んでいませんが,加速器を用いたイオンビームの発生効率として数十%が可能であることから,近年注目されています.

図2-1:重イオン慣性核融合の原理



2. ビーム・プラズマ相互作用実験

上のアニメーションで注目して頂きたいのは,プラズマ化したコンバーターにイオンビームが入射して,さらに加熱を続けていることです.
イオンビームが物質に入射したときどのくらいのエネルギーが付与されるか,といったビームと物質との相互作用は,従来から詳しく調べられてきました.しかし従来,測定の対象は気体・固体等の常温物質に限られていました.一方で標的が非常に高温,つまりプラズマの場合についてはほとんど調べられていません.イオンビーム とプラズマとの相互作用は,上のアニメーションのようにイオンビームでプラズマを加熱する場合や,プラズマにイオンビームを当てて診断を行う場合に重要です.また太陽など恒星の内部では熱核反応で生じた高速荷電粒子がプラズマを加熱してエネルギー源となっているように,宇宙空問に目を向ければ最も普通の現象であるといえます.
現在本研究室ではこのイオンビーム・プラズマ相互作用の実験的研究を進めています.図2-2は本研究室の加速器に接続された実験装置系です.加速器からのイオンビームは右から来ます.中央部の真空容器内にセットした水素化リチウム微粒子に高出力レーザー光線(瞬間的に約1億ワット)を照射して超高温(数10万度)のプラズマを発生します.このプラズマ標的を通過したイオンビームを測定してプラズマへのエネルギー付与や出射してくるイオンの電離状態等を測定し,常温物質との違いについて実験を中心に研究します.実験結果はプラズマ物理,及び原子物理学的観点から理論的に解析されます.簡単な数値シミュレーションも併用します.


図2-2:高温レーザープラズマに重イオンビームを打ち込み測定するための実験装置

図2-3はイオンビームの標的となるプラズマの電子密度測定法の一例で,現在本研究室で開発が進められています.プラズマは1千万分の1秒程度で消滅するので,測定には高い時間分解能が必要です.発生したプラズマに幅の広い別の平行レーザー光(連続のArレーザー,またはパルスNd:YAGレーザー)を当てると,プラズマによって屈折するため,左下のような像がスクリーンに写ります.これをシャッター時間1億分の1秒の電子式コマ撮りカメラで撮影し,画像を解析して球状プラズマの電子密度分布(右下のグラフ)を求めます.
その他,レーザー干渉測定,真空紫外領域の分光測定,チャージコレクターによるイオン電流測定等から,プラズマの密度,温度,電離度を診断測定しています.代表的なプラズマ電子密度は1018 cm-3,温度は10-20 eV程度です.

図2-3:レーザー屈折法による標的プラズマの電子密度分布診断測定



3. プラズマ中の重イオンのエネルギー損失

エネルギーが数メガ電子ボルト(MeV)の重イオンビームが標的に入射すると,主に標的中の電子にエネルギーが付与されます.入射した重イオンビームが物質中で単位長さ飛行する間に失うエネルギーを「阻止能」と言います.一般にこの阻止能Sは大まかに

Szeff2 × ln(bmax/bmin

と表すことができます.ここでzeffは,標的から見た入射イオンの荷電数で「有効電荷」と呼ばれます.対数は「クーロン対数」であり,この中のbmaxbminはそれぞれ物理的に意味のある最大,最小の衝突係数(入射重イオンから標的内電子までの距離に関係)を表します.
図2-4
16O重イオンビームによるプラズマへのエネルギー付与,すなわちプラズマ加熱に関するデータで,本研究室により国内で初めて測定されました.横軸はイオンビームのエネルギー,たて軸はビームの「阻止能」で,ビームによる加熱の効率に相当します.測定には幅10億分の1秒,繰り返し1メガヘルツのパルスビームを用い,エネルギーを失うとイオンの飛行時間が長くなることに注目した「飛行時間法」を使います.高温プラズマは常温の物質に比べて3倍以上も効率良く加熱されることが明らかになりました.この結果の理由の一つとして,常温標的中の束縛電子よりも,プラズマ中の自由電子の方が入射重イオンに対してより敏感に反応できることがあげられます.
このため上式中の最大衝突係数bmaxが増大し,プラズマ中では常温標的に比べて阻止能が大きくなるものと考えられます.


図2-4:16Oイオンビームによるプラズマへのエネルギー付与
(ビームの入射エネルギー依存性)




4. プラズマ中の重イオンの荷電状態

図2-5
はプラズマを通過した12C重イオンビームの荷電状態に関するデータです.一般的な低密度の気体や固体等,常温標的の場合に比べ,プラズマ化した標的の場合は荷電数が大きく増加していることが分ります.これは,高電離プラズマ中では入射イオンビームの電子再結合の確率が大きく減少することにより説明できます.
このようにプラズマ中では入射イオンの実効的価数,すなわち「有効電荷」zeffが大きくなり,標的中の電子とのクーロン力による相互作用も大きくなるため,上の式にしたがって図2-4のように「阻止能」が増大します.

図2-5:常温標的,プラズマ標的を通過した12Cイオンビームの荷電状態分布の違い.
図中"t"はレーザー照射後の経過時間.

上の実験結果は,標的プラズマ内での入射イオンの電離・再結合断面積を原子物理学的に計算して,数値的に評価することが可能です. 図2-6に計算結果の例を示します.横軸はビームのイオンがプラズマに入射してからの時間,縦軸は各荷電状態の割合です.最終的に荷電状態の平均値(有効電荷zeff)は約4+に落ち着き,図2-5の結果がほぼ再現されています.この計算では電離過程として,Aq+を入射イオン,B+をプラズマイオンとして,
  • 自由電子との衝突: Aq+ + e- → A(q+1)+ + 2e-
  • プラズマイオンとの衝突: Aq+ + B+ → A(q+1)+ + B+ + e-
電子再結合については,
  • 放射再結合: Aq+ + e- → A(q-1)+ + hv
  • プラズマイオンの束縛電子捕獲: Aq+ + B+ → A(q-1)+ + B2+
を考慮しています.なお,プラズマ密度が常温気体換算で0.1気圧と比較的高いので,逐次衝突励起による電離も考慮しています.
プラズマ中で入射イオンの荷電状態が常温物質中に比べて増大するのは,高電離プラズマ中で上記の束縛電子捕獲が起こりにくいためと考えられています.

図2-6:電子密度1018 cm-3,電子温度10 eVのLiHプラズマ(Li+ + H+ + 2e-)に入射した
225 keV/u 12Cイオンビームの荷電状態の時間発展.入射時の荷電状態は2+.




5. プラズマ・重イオン相互作用におけるクーロン対数

上記「4.」で示した式,”Szeff2 × ln(bmax/bmin)”
の中の「クーロン対数」 ln(bmax/bmin)を実験的に測定できれば,有効電荷zeffの実測値と合わせて阻止能Sを評価できます.これを実測値と比較検討することにより,物理モデル,理論の妥当性を評価でき,現象の理解を深めることができます.
クーロン対数は,重イオンと同じ速度の陽子ビームの阻止能を測定すれば求めることができます.なぜなら,陽子では常にzeff = 1であるからです.しかし,実験に用いる重イオンと等速度の陽子は,質量が小さいためエネルギーが少なすぎて本研究室のタンデム加速器では効率良く加速することができません.そこで,現在低エネルギー陽子ビーム発生のために専用の大電流パルス陽子ビーム発生装置を建設中です.陽子はYAGレーザーを用いたレーザープラズマイオン源を用いて発生し,最大電圧200 kV(DC)で加速した後,バンチャーまたはチョッパーでパルス化します.図2-7
にその模式図を示します,また
図2-8はタンデム加速器を含む現在のビームラインへの接続を示します.図2-9は設置された大電流パルス陽子ビーム発生装置で,背景はタンデム加速器です.

図2-7:クーロン対数測定用200 kV 大強度パルス陽子加速装置.


図2-8:タンデム加速器を含む現在のビームラインへの接続図


図2-9:設置後,調整中の200 kV 大強度パルス陽子加速装置



6. 応用:重イオン加速器用高性能プラズマ電子ストリッパー

重イオン加速器においては,加速するイオンの荷電数が大きければ小さい加速電圧でより高いエネルギーが得られます.したがって,イオン源でできるだけ高い荷電数のイオンを発生させることが重要です.しかし,一方で低荷電数のイオンを予備加速した後,電子ストリッパーと呼ばれる薄膜等に通して電子を剥ぎ取って荷電数を増加させる方法も有効で,中・大型の重イオン加速器システムでは広く行われています.
上記「5.」で述べたように,プラズマ中では常温物質に比べてイオンビームの荷電状態が高くなります.そこで
図2-10のように,この現象を重イオン加速器における電子ストリッピングに応用することが考えられます.極めて寿命が短く,パルス動作しかできないという難点がありますが,原理的には常温物質では実現できない高い荷電状態のイオンが得られるという特長があります.



図2.10:高性能プラズマ電子ストリッパーの原理図

本研究室ではエネルギー350 keV/uの各種重イオンビ−ムをプラズマに通し,通過後の荷電状態を調べました.図2-11にその結果を示します.いずれも炭素薄膜等,従来用いられてきたストリッパー材料の場合よりも高い荷電状態が得られることが分りました.


図2-11:エネルギー350 keV/uの各種重イオンビームに対する高温プラズマの電子ストリッピング性能.



7. 衝撃波管を用いた低速重イオン・プラズマ非線型相互作用実験

プラズマの密度が高く,温度が比較的低い場合,プラズマ粒子間の相互作用が無視できない,いわゆる非理想プラズマとなります.このようなプラズマに高い荷電数を持った比較的低速の重イオンビームが入射すると,入射粒子と標的プラズマの結合が強いために非線型相互作用が観測されること可能性があります.例えば,分子動力学的計算によれば,この非線型効果のためにイオンの阻止能がやや低下することが予想されています.図2-12に示すように,当グループでは電磁駆動衝撃波管で発生される非理想水素プラズマを標的として,そこに低速重イオンビ−ムを入射し,阻止能測定を行う準備を進めています.


図2-12:電磁駆動衝撃波管を用いた重イオン・プラズマ非線型相互作用実験.

図2-13に衝撃波管に関する実験結果の一例を示します.ストリークカメラを用いた流し撮りにより衝撃波速度を測定します.この場合はマッハ31が得られています.現在,初期水素ガス圧力5 Torrに対してマッハ50という目標に向けて開発を行っています.

図2-13:ストリークカメラを用いた衝撃波速度の測定方法(上)と測定結果の例(下).


8. 慣性核融合用大強度重イオンビームの発生

重イオン慣性核融合には非常に大きい強度の重イオンビームが不可欠です.このような大強度ビームにおいては,イオン同士に働く静電反発力によるビームの発散(空間電荷効果)を低減するために,荷電数の低いイオンを使う方が有利です.
固体標的を強力なパルスレーザーで照射すると,高密度のプラズマが噴出します.ここからイオンを引き出せば強力なイオン源となります.この「レーザーイオン源」については従来高エネルギー加速に適した高い荷電数のイオンを発生することを目的に開発が行われてきました.しかし慣性核融合に必要な低い荷電数のイオンを安定に,しかも1パルス内で大量(1013-1014 個程度)に発生する技術はあまり進んでいません.
当研究室では,銅のブロックをNd-YAGパルスレーザーで照射して比較的低温のプラズマを発生し,誘導加速器による高電圧パルスでそこからイオンを引き出す方式を開発しました.
図2-14にこの誘導線型加速器と加速電極を示します.レーザープラズマを膨張させた後,半球状の引き出し電極ギャップに導入し,集束と加速を同時に行います.引き出し兼加速電圧は140 kVです.陽極上の引き出し穴(6角格子状に19個配置)には金属メッシュを張ってバイアス電圧を加え,イオンが引き出されるプラズマの表面形状を制御します.
図2-15は粒子コードによる大強度ビームの軌道の計算結果です.ビーム電流は上から0,0.175,0.350 Aです.球状構造により,イオンの発散を抑えつつ大電流ビームを引き出せることが分ります.現在までに,この方法により0.1 A級の大電流イオンビームを0.5マイクロ秒に亘って引き出せることが実験的に確認されています.ビームの挙動は計算と大体一致しています.


図2-14:140 kV誘導線型加速器(左)と半球状イオン引き出し電極(右)


図2-15:引き出されたイオンビームの軌道計算結果.円弧は電極の断面を表す.



関連する主要論文:

S. Nishinomiya, K. Katagiri, T. Niinou, J. Kaneko, H. Fukuda, J. Hasegawa, M. Ogawa, Y. Oguri: "Time-Resolved Measurement of Energy Loss of Low-Energy Heavy Ions in a Plasma Using a Surface-Barrier Charged-Particle Detector"; Progress in Nuclear Energy 50 (2008) 606-610.

K. Katagiri, J, Hasegawa, T. Niinou and Y. Oguri, “Time-Resolved Measurement of a Shock-Driven Plasma Target for Interaction Experiments between Heavy-Ions and Plasmas”, J. Appl. Phys. 102 (11) (2007) 113304-1-8.

Y. Oguri, T. Niinou, S. Nishinomiya, K. Katagiri, J. Kaneko, J. Hasegawa and M. Ogawa, “Firsov Approach to Heavy-Ion Stopping in Warm Matter Using a Finite-Temperature Thomas-Fermi Model”, Nucl. Instr. and Meth. A 577 (1-2) (2007) 381-385.

Y. Oguri, K. Kashiwagi, J. Kaneko, J. Hasegawa, M. Yoshida and M. Ogawa, “Extraction of High-Intensity Ion Beams from a Laser Plasma by a Pulsed Spherical Diode”, Phys. Rev. ST-AB 8, 060401 (2005) 1-8.

Y. Oguri, J. Hasegawa, J. Kaneko, M. Ogawa and K. Horioka, “Stopping of Low-Energy Highly Charged Ions in Dense Plasmas”, Nucl. Instr. and Meth. A544 (2005) 76-83.

K. Shibata, K. Tsubuku, T. Nishigori, T. Nishimoto, J. Hasegawa, M. Ogawa, Y. Oguri and A. Sakumi, "Experimental Study on the Feasibility of Hot Plasmas as Stripping Media for MeV Heavy Ions", J. Appl. Phys. 91 (2002) 4833-4839.

小栗慶之, 「重イオンと高エネルギー密度プラズマとの相互作用」, プラズマ・核融合学会誌,77 (2001) 25-32.




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