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〒152-8550 東京都目黒区大岡山2-12-1-N1-6 TEL/FAX: 03-5734-3067, E-mail: ptsuka(at)nr.titech.ac.jp [(at)を@に換えてメール下さい)]

プロジェクトProject

  • ナノ流体制御を利用した革新的レアアース分離に関する研究

    【研究背景】
     
     レアアース(希土類元素)を始めとする希少金属は、半導体や電池などの電子・磁性材料や触媒・光デバイスなどの機能材料として欠かすことのできない重要な鉱物資源となっている。例えば、蛍光管用のユーロピウム、研磨剤用のセリウム、液晶パネル用のインジウムが挙げられる。しかし、世界のレアアース資源の90%以上を中国が占めている上、日本はその殆ど全てを輸入に頼っており、供給構造が極めて不安定という緊縛の課題がある。そこで近年、レアアースの安定供給に向けて、使用済製品や廃液などからレアアースを高効率・高選択的に分離・回収し、再利用するための研究が盛んに行われている。特殊な抽出剤を用いる溶媒抽出法あるいは樹脂・カラムを用いるクロマト法が汎用的に用いられているが、いずれの技術もバルク相を操作して統計平均的な結果を得る“受動的”な手法であるため、化学形態の類似したレアアースの相互分離が極めて難しく、これ以上の飛躍的な展開は望めない状況にある。問題を困難にしているのは、@溶媒抽出法は、長時間(数日),多段階(数百段以上)の工程が必要で、大量の二次廃液が生じ、環境負荷が大きい、Aクロマト法では、吸着材の細孔径や内部構造が不均一のため、試料の軌跡や吸着性を厳密に制御できず、生産性が低い等の点が挙げられる。従って、従来の受動的手法から脱却し、金属イオン挙動を分子レベルで“能動的”に制御する新しい方法論を構築する必要があるが、これまで研究された例は無い。

     一方我々は、下図に示すように、10〜100 nmスケールの空間(拡張ナノ空間*)が、トップダウン型バルク・マイクロ加工からボトムアップ型ナノテクへの技術移行領域で、分子の振る舞いが液相から孤立系の単一分子へ移行する過渡的領域でもあり、工学的にも学術的にも極めてユニークな空間であるにも関わらず、未開拓の領域であることに着目し、様々な研究を進めてきた。これまでに加工・流体制御・計測技術を世界に先駆けて構築すると共に、内部の物理化学特性を調べ、拡張ナノ空間では壁面電荷(電気二重層)の効果が場全体に波及して、分子クラスター(数百分子程)の挙動が顕在化され、バルク的概念では類推できない溶液物性や反応特性が発現することを見出した。例えば、800 nm以下に閉じ込めた水は、バルクよりも「高粘度」「低運動性」「高プロトン移動度」であり、壁面から高次に配向した50nm程の水分子相を形成すること、また、この特性は「化学平衡のずれ」や「金属錯体の配位子交換速度の増加」など化学反応にも劇的な変化を与えること等である(Angew. Chem. Int. Ed. 2007年2月号裏表紙, Chem. Soc. Rev. (2010)等)。さらに、電荷の異なる蛍光色素分子や価数の異なる金属イオン(Sr(II),Ce(III),U(VI)等)を、ガラス製の拡張ナノ流路内に流すだけで相互分離できることも実証してきた(Anal.Chem.(2009), JST原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブH.20‐21等)。
    [*一枚の基板上に彫り込んだ、髪の毛の太さの1000分の1よりも小さいサイズの溝]
      




    【目的と研究計画】

     そこで本研究では、拡張ナノ空間の特異性と表面化学を巧みに組み合わせて初めて可能となる、“標的のレアアースメタルを溶媒和クラスターレベルで能動的かつ高選択的に分離・濃縮できる極限分離デバイス”を構築することを目的とする。拡張ナノ流路に表面機能の異なるナノ構造体を規則的に配置して、種々の溶媒和金属イオンと壁面間の静電相互作用,溶媒和自由エネルギー,イオン移動度などの僅かな差を顕在化させると共に、これらの差に応じて流れを制御することで、バルク的操作では不可能な精緻なレアアースメタルの高度分離技術と方法論を創成する。
     本研究の構想図は下図の通りである。具体的な研究項目は、「ナノ表面機能制御法の確立」「ナノ流体制御による分離試験と評価」「溶媒和イオンの構造とダイナミクス解析」の3つから成り、これらを有機的に連動させることで、分離条件の最適化、問題点の抽出・整理を適宜行って、研究の発展を図る。

      
     
                    


    【研究の重要性・優位性】  
     1nmスケール空間でのみ発現する量子効果や近接場効果を利用するナノテクが、エレクトロニクスやフォトニクスにおける学術と工学に新しい展開をもたらしてきたように、10〜100nmスケールの空間でのみ発現する電気二重層や流体効果を利用する拡張ナノ技術は、化学,エネルギー,環境において新しい展開をもたらす。工学的には、溶媒抽出,クロマト(カラム,膜など),沈殿といった液液分配や固液吸脱着に依存する従来の分離法の概念から完全に脱却した、分子クラスターレベルで分離・回収する新機能デバイスが実現できる。また、学術的にも有用で、バルク・マイクロ空間の連続体論とナノ空間の分子論を繋ぐ、液相分子クラスター論ともいうべき、新しい学問領域の創成に繋がる。

     日本は、IT製品や自動車、二次電池等のハイテク製品に欠かせないレアアースメタルの世界全体の約1/4を消費しているため、これまで蓄積された廃製品や廃液中のレアアースの量だけで、世界有数の資源国(中国やオーストラリアなど)に匹敵する都市鉱山大国となっている。都市鉱山に溶存するレアアースを回収・リサイクルするための様々な分離技術が国家的プロジェクトで研究されており、これらの有用性が示されているが、既存の分離法を改良ないし高度化した手法が殆どであり、他国を凌駕するようなブレークスルー技術では無かった。
     本研究成果は、従来にない機能や特性を持つ“革新的拡張ナノ分離デバイス”という新しい科学と技術を提供するものである。目的とする組成や純度に併せて表面機能を設計した拡張ナノ流路内に、原料溶液(都市鉱山の溶解液など)をそのまま流せば、高効率・高選択的にレアアースを分離できる。回収・精製した後、製品として再利用すれば、循環型レアメタルサイクルシステムとなり、グリーンイノベーションに資する研究開発である。
     都市鉱山からのレアアース回収だけでなく、医薬品や染料工場から排出される水から溶存成分(有機物、重金属、粒子など)を除去する水の浄化・水質改善、海水中に溶け込んでいるリチウム(Li)の回収、海水の淡水化など一般産業全般へ展開できる。また、原子力発電所などから漏れ出した環境汚染物質(放射化したレアメタルやアクチノイド元素)の移行挙動の予測を容易にし、飛散防止のための構造材料等に設計指針を与える可能性もある。さらには、レアアース合金の持つ高い水素の吸蔵・放出能という観点で見ると、本研究で開発する拡張ナノ分離システムを用いて、組成や純度を最適化したレアメタル混合物(ミッシュメタル)を分離・精製できれば、極めて高機能な水素吸蔵合金を作製でき、エネルギーデバイスとして展開できる。対象とする分野が多岐に渡るので、その波及効果は極めて大きい。

      
      




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