S. Chiba Laboratory 

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Outline of Research

140MeVの中性子が238Uに入射して起きる核分裂のシミュレーション

JQMDという量子分子動力学モデル[1]で計算しました。白丸が中性子、緑丸は陽子です。また時間の単位 1fm/c は、3.3×10-22秒です。最初に左側に見える小さい○が中性子、その右にある大きな塊が238Uです。中性子が左からウランに衝突していきますが、速度が大きすぎるためぶつかる途中は見えません。動いたと思ったら次の瞬間には原子核にめり込んでいると思ってください。238Uの直径は15fmくらいですから、全体が200fm四方位の範囲を見ています。

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140MeVの中性子が238Uに入射して起きる核分裂のシミュレーション

中性子が入射してすぐにいくつかの中性子(=スポレーション中性子)が放出された後、励起した原子核ができますが、それが一つの原子核でいる間の変化はゆっくりしてします。その間、原子核の中で中性子や陽子が激しく熱運動によって動き回っていますが、これが原子核中での一粒子運動の様子です。一粒子運動に比べて原子核の形状変化が非常に遅いことが分かります。原子核の形状変化を数個のパラメータの時間変化として表す方法の一つが我々が取り組んでいるランジュバン方程式ですが、そこでは、一粒子運動は形状変化に対して摩擦や熱揺動を与える役割を果たします。その後、ヒョウタンのような複雑な形状を経て分裂して行き、二つの核分裂片に分かれたとたんに加速しながら急速に離れていきます。これは核分裂片が大きな正の電荷を持っているために強いクーロン斥力が働くからです。それによって核分裂片が持つ運動エネルギー、これが原子炉の中で熱になる主要な源です。

核分裂が終了するまでにかかる時間は10000fm/c程度ですから、だいたい10-18秒ということになります。これが典型的な複合核反応の時間スケールです。これに対してスポレーション中性子は“あっ”という間(10-22 〜10-21秒のオーダーで)に出て行きましたね。これが直接反応の時間スケールです。原子核の計算でいろいろな模型が使われるのは、このように時間スケールが全然違ったり、あるいはエネルギースケールが違う現象を扱う必要があるからです。

さて、このようにして出来た核分裂片は励起しているので、このアニメが終わった後に中性子(即発中性子)や即発γ線を放出して基底状態に落ち着きます。しかし、核分裂片の多くは中性子過剰核なので、さらにβ崩壊γ崩壊を繰り返して安定核に近づいて行きます。この時放出される電子やγ線が崩壊熱になります。またβ崩壊する時にも中性子が放出されることもあります。これが遅発中性子です。質量数が87のβ崩壊チェーンの様子を左下の図に示します。ここに書いた原子核は87Kr以外はいずれも遅発中性子を放出します。遅発中性子が原子炉の制御で非常に重要なことはみんな知ってますね?このβ崩壊の部分に対しては、大局的理論で記述を試みます。そのために、原子力機構で開発された重イオン代理反応が重要な実験データを与えてくれます。

入射粒子によって持ち込まれた運動エネルギーと結合エネルギーが原子核内部で熱エネルギーに転化し、それがいかにして原子核を二つに分裂させる集団流を駆動するのか?これは未だに解明されていない謎です。これが分からなければ、核分裂片の(N,Z)分布や運動エネルギー分布、放出中性子数、崩壊熱など、原子力に直接関係する物理量も理解することができません。

このような核反応シミュレーションは、基礎研究に用いられるだけでなく放射線輸送計算システムPHITSなどに組み込まれてその一部として巨視的体系における放射線挙動の解析に用いられます。実は、それだけではなくて、中性子星表面にあるクラストと呼ばれる部分の非一様構造の解析にも量子分子動力学を用いたりしました。いろんな分野って、見えないところでつながってるんですね。

[1]仁井田浩二、丸山敏毅、奈良 寧、千葉敏、岩本 昭
JQMD (Jaeri Quantum Molecular Dynamics) コードの開発
JAERI-Data/Code 99-042(1999).

Neutron number N

Neutron number N

重力崩壊型超新星爆発で発生するニュートリノ照射を受ける高温・高密度物質でのr過程元素合成の様子。
T9は109K単位での温度、Ynは中性子のアバンダンス。tは超新星爆発後の時間。
灰色の+印は安定核。3個の■は132Sn、208Pb、238Uの位置を示す。
このような計算には膨大な量の原子核反応および崩壊データが必要となりますが、その多くは原子力分野で必要になるデータと共通です。国立天文台との共同研究の成果。

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